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短編と音楽と、
『ジェリコの戦い』と
濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が公開されてから月日が経ってますが、海外の映画賞で評価されるにつれ注目度もアップしてますね。アカデミー賞でまさかの作品賞にまでノミネートされちゃったりで(作品賞は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が本命視されてるようですがどうなんでしょう?これもいい作品でした)これからさらに盛り上がりそうです。
『ドライブ・マイ・カー』の原作
この『ドライブ・マイ・カー』の原作は、村上春樹さんの短編小説(『女のいない男たち』の収録)なわけですが、これを機に数年ぶりに小説を読み返してみました。 50ページにも満たないくらいの短編を3時間の映画にしたわけですから、原作短編にないストーリーもだいぶ付け加えているのですが、『ドライブ・マイ・カー』以外にもこの『女のいない男たち』に収録された短編『シェエラザード』と『木野』の内容も使用されています。
クレジットされている原作はあくまで『ドライブ・マイ・カー』のみですが、『シェエラザード』のエピソードと『木野』にいたっては、ほんのちょっとセリフが使われています。
『木野』には、古いJAZZを聴くシーンが何度もでてきます。小説の中に音楽を登場させるのは村上春樹さんの得意技。村上作品に出てきた音楽を調べて聴いてみた人は多いんじゃないでしょうか?(個人的に最も印象に残っているのは『海辺のカフカ』で使われたベートーヴェンの『大公トリオ』でした。)
村上作品では、CLASSIC、POPULAR、JAZZ、ジャンル問わずに音楽が登場しますが、この短編『木野』では、とにかくJAZZです。しかもけっこう古いJAZZ。主人公がJAZZをかけるバーを営んでいるという設定。アート・テイタムやビリー・ホリディ、ベン・ウェブスターなどの名前がたくさん出てきます(と言ってもほとんどは何を聴いているのか名前だけ)。
その中で“おっ”と思ったのはコールマン・ホーキンスの『ジェリコの戦い』という演奏でした。
『ジェリコの戦い』のベースソロ
文章には
〜『ジェリコの戦い』が入っているコールマン・ホーキンスのLPを聴いた。メジャー・ホリーのベースソロが素晴らしい。
とあります。なんと一文だけ聴き所まで教えてくれているではないですか。
これはどういうふうに素晴らしいか聴いてみたくなります。
コールマン・ホーキンスは“テナーサックスの父”と呼ばれるテナーマンで、テナーサックスをJAZZの花形に押し上げた巨人です。その中で『ジェリコの戦い』は、名演と言われている有名な演奏なのですが、ベースソロにはまったく注目しておらず、すっかり忘れていました。
あらためて聴き直すと、なんとベースがユニゾンでスキャットしながらソロをとってるではないですか(上記リンクの5分6秒あたりからに注目)。ベースのメロディとまったく同じメロディを口でも歌ってるわけです。確かに印象的で素晴らしい。(メジャー・ホリーという人はこういうスタイルで有名なプレイヤーらしいです)
誰かが言ってるから、その良さに気づくってよくあることですが、興味ある方は聴いてみてください! ベースのメイジャー・ホリーのほか、ピアノはトミー・フラナガンといった名手が参加していて、『ジェリコの戦い』のほか、『オール・ザ・シングス・ユー・アー』や『マック・ザ・ナイフ』といった有名スタンダードも演奏されています。
HAWKINS! ALIVE! AT THE VILLAGE GATE / COLMAN HAWKINS