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聖なる鹿殺し

アカデミー作品賞にノミネートされるような、完成度が高くて多くの人が楽しめる作品もいいのですが、監督の作家的な個性が強くでていて「こりゃ、万人向けじゃないよ〜」という映画には強く惹かれてしまうものです。

今回、紹介するのはその強烈な個性の持ち主ヨルゴス・ランティモスの『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』。

理不尽なルールを押し付けられる!

この監督を知ったのは前作「ロブスター」。この作品はとんでもない内容で話題になりました。
一定期間に結婚相手を見つけなければ、動物にされてしまうという荒唐無稽な話し。その動物は自分で選べるのですが、この主人公の場合はロブスター…。いや…、けっしてコメディ映画じゃないんですが…。

こんな無茶苦茶なルールを観客に無理矢理おしつけてしまうのが、この監督のやり方なんですね。

本作『聖なる鹿殺し』の場合は、手術中に患者を死なせてしまった医者の子どもたちが突然歩けなくなってしまうというもの。
ストーリーが進むうちに、その科学的根拠や仕掛けが明らかに!なんてことを期待してはいけないのです、この監督の場合。ただ歩けなくなります。
わかってはいてもどこかで謎解きを期待して観ているものだから、後でポカンとなっちゃうんですよね…。
かといってオカルトっぽい作りでもないんです。そこにあるのはただ歩けなくなるって事実だけ。
我々観客は、この監督のつくったルールの前にただらだひれ伏すのみなのです。

ギリシャ神話由来のタイトル

この『聖なる鹿殺し』って物騒で変わったタイトルですが、神の鹿を殺してしまうギリシャ悲劇からきているらしいです。
そう聞くと、なるほど〜という部分もあるのですが、ネタバレになっても嫌なので、これ以上は書かないでおきます。
興味ある方は、鑑賞後に関連を調べてみてください。

このヨルゴス・ランティモスはギリシャの監督。ギリシャの映画監督といえばアンゲロプロス!(大好きです!)
アンゲロプロスの映画もギリシャ神話が下敷きになっていましたが、我々にはヘレニズム(古代ギリシャ文化)・ヘブライズム(ユダヤ教・キリスト教文化)の素養がないぶん、こういったヨーロッパ映画を直感的に味わえていないんじゃないかとも思えますね…。

 

パスタを食べるシーンにも注目!

この映画の中で嫌でも印象に残るのが少年マーティンがパスタを食べるシーン。
会話をしながらパスタを食べているのですが、とにかくいや〜な印象になり、観ているこちらの緊張感がMAXになる!パスタを食べているだけなのに…。

「アデル、ブルーは熱い色」のパスタを食すシーンも、ただ食べているところを印象的に撮った名シーンでしたが、それに匹敵するパスタシーンじゃないでしょうか?

パスタの食べ方ってその人柄がよく表れるんですよね。食べているいるだけで人物描写になるので特徴的なシーンが生まれやすいんだと思います。


ちなみにこの作品、アカデミー脚本賞にはノミネートされていますし、カンヌ映画祭では審査員賞を受賞。

このヨルゴス・ランティモス監督の実力とその豪腕ぶりは凄い。
無理矢理な展開なので気楽に楽しもうという映画ではないですが、無難な娯楽作品に飽々した方にはおすすめです!

 

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