若者には読まれていない(であろう)「岩波文庫」のラインナップから、おすすめ作品をピックアップ、第三弾。
今回は詩。アイルランドの詩人イェイツです。
『対訳 イェイツ詩集』高松雄一選
〈342ページ 読みやすさ度★★★☆☆〉
「岩波文庫」+「詩」の組み合わせ。これだけでとっつきづらくて毛嫌いされてしまいそう。こういった本は人に薦められることがなければ一生読むことがなかったりするんではないでしょうか? かくゆう私も詩は苦手…。
しかし、そういう人でもイェイツくらいは目を通しておきましょう!
文学作品や映画なんかでよく引用されるので、(おぼえてないかもしれませんが)しらない間にイェイツには触れている可能性が高いわけですし、今後、映画などをみていて登場した時に「ああ、イェイツが引用されてたね」なんて台詞が言えるわけです。
ぼくの場合も映画であまりに引用されてたり名前を聞くので興味がわいてこの本を購入するにいたりました。
引用されているので有名なのは、コーエン兄弟の映画「ノーカントリー」(原作はコーマック・マッカーシー)。ここではイェイツの『ビザンティウムへの船出』が引用されています。
「あれは老人の住む国ではない〜」から始まる詩。
また、コーエン兄弟のようにメジャーな映画ではないですが、ホセ・ルイス・ゲリン監督のドキュメンタリー映画「イニスフリー」では、イェイツの代表作「イニスフリーの湖島」が引用されています。
ジョン・フォード監督の名作で架空の村イニスフリーが舞台の「静かなる男」へのオマージュとしてそのロケ地で撮影されているのですが、そこで「イニスフリーの湖島」が朗読されるわけですが、ほんとややこしい!
馴染み深いところだと、この『対訳 イェイツ詩集』には収録されていないので恐縮ですが、イェイツは、村上春樹「海辺のカフカ」でも引用されています。
すべては想像力の問題なのだ。僕らの責任は想像力の中から始まる。イェイツが書いている。In dreams begin the responsibilities ー まさにそのとおり。逆に言えば、想像力のないところには責任は生じないのかもしれない。このアイヒマンの例に見られるように
ぼくは、残念ながらこの「海辺のカフカ」を読んだ時点ではイェイツもアイヒマンも知らなかったのですが、わかってる今読むと「おーっ」となる説得力のある名文なわけです。
ちなみにアイヒマンとは、大勢のユダヤ人を強制収容所に送る指揮をとったナチスの中佐ですね。どんな残虐な人物かと注目されたのですが、上からの命令にしたがうだけの普通のおじさんであったことが明らかになりました。普通の人間でも残虐なことができることの例としてよくあげられます。
そのあたりのことはミルグラムがおこなった通称アイヒマン実験が有名で、g-logの過去の記事でも取り上げてます。
少し話しがズレました。
とにかく、いろんなところで引用されるイェイツくらいはおさえておいたほうがいいじゃないかということです。
正直、ぼくのように詩に疎い人間がこの本を全部楽しめるわけではありませんが、個人的におすすめしたい「彼は天の布を求める」という詩があるので紹介します。
「彼は天の布を求める」金銀の光で織り上げて刺繍を施した天上の布があれば、夜と、光と、薄明かりで作った、青と、薄墨いろと、黒いろの布があれば、その布をあなたの足もとに広げたろうが。だが、貧しい私には夢しかない。私はあなたの足もとに夢を広げた。そっと歩いてくれ、私の夢の上を歩くのだから。
どうです? 最後の一行がすごくおしゃれだと思いませんか?