第158回の芥川賞作品紹介、
前回の「百年泥」に続いて今回は『おらおらでひとりいぐも』です。
63歳デビュー作で受賞
この作品でまず話題になったのは、著者の若竹千佐子さんは63歳。
そして、デビュー作がいきなり芥川賞!という驚きの事実。
55歳から小説講座に通い始めて小説家を目指したらしい。
55歳から始めても芥川賞がとれるんだ!
という、世のおじさん・おばさんに勇気を与えるような話。
「やりたいこと、はじめたいことに年齢は関係ない」なんてよく言われるベタな言葉を体現してみせたわけですね。
受賞後のニュースでこの話しを聞いて、小説の内容うんぬんに関係なく「55歳から書き始めた人の小説ってどんなだろう?」という好奇心ですぐに読みたくなりました。
主人公・桃子さんの魅力
この作品の主人公・桃子さん(74歳)は、夫に先立たれて孤独な一人暮らし。
オレオレ詐欺にあってしまった過去があるのですが、ジャズが好きだったり、地球の歴史が好きで時として地球レベルの大きな思考をしてしまったりする、ちょっと面白い人なんです。
この作品にストーリー展開らしきものはさほどなく、ほぼ桃子さんの心の中の表現や回想で占められた、まさに純文学らしい小説。
難点はこの桃子さん、東北弁を使うものだから、けっこう読みにくいんです。全編にわたって占められている桃子さんの心の声が東北弁なわけです。なかなかサクサクは読み進められない。
しかし、その桃子さんの東北弁につきあっているうち、だんだん、なんとなく、応援しながら読んでいる、そんな魅力があるんです。
一見、作家のオーラなんかまったくなさそう(失礼!)なのに、とんでもないことを成し遂げた著者・若竹千佐子さんといい、インドでの日本語講師の経験を活かした「百年泥」の石井遊佳さんといい、今回の受賞者はとても興味がわいて、久しぶりに芥川賞で熱くなりました!
こういう賞モノは、新しい作品を読むきっかけになるので楽しいものです。