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集団

日本人は、“個”の力は弱いかもしれないが、和の心を持ち秩序や調和を重んじるので“集団”になると力を発揮する、といった評価をよく聞くと思います。

サッカーやバレーボールなど団体競技の国際試合になると「個の力に勝る外国チームに結束してチームの力で立ち向かう日本!」という図式は、もううんざりするほど聞かされていますし、ビジネスの世界でも組織の力、プロジェクトチームの力を結集して戦い「日本人は集団で力を発揮する」というイメージは強くあるのではないでしょうか。

実は、日本人は集団ではどうしようもない?

しかし、イタリアのピニンファリーナでディレクターを勤めた奥山清行さんの著書『100年の価値をデザインする』を読んだ時は衝撃でした。

そこに書かれていたのは、彼が世界で仕事をしてきた感想として
「日本人は個人として力を持った素晴らしい人がたくさんいるが、こと団体になるとどうしようもない」
ということでした。

本を読んでいるとハッとさせられる文章に出会うことは多いですが、社会人になって以降、何年もなんとなく感じていたことをはっきり突き付けられた気分でした。

言われてみると確かにそうです。「みんなで決めたことに従わなければいけない」「マニュアルで決まっていることだから」「議論が噛み合っていない」「他人まかせになっている」といったことで、理不尽な思いをしてきたことが多くないでしょうか?

野中郁次郎さんの『知識創造企業』

日本人は、間違いなく知的水準は高いはずなのに、どうしてこういうことになるのか。
奥山さんの本を読んだ後、その原因までは深く考えていませんでした。

しかし、数年後の現在、野中郁次郎さんの名著『知識創造企業』を読んで、ふと「これが原因のひとつではないか?」という文章に出会ったのです。

『知識創造企業』はナレッジ・マネジメントについて書かれた本。
言葉で表すことが難しい個人が持つ暗黙知(職人技やコツのようなものを想像してください)とはっきりと形にできる形式知の相互作用をもとに組織的な知識創造を促そうという内容です。

これには、知識や認識に対する西洋と日本の差が大きく関係していることが述べられています。
西洋ではデカルトやカントを始めとした偉大な哲学者が知識とは、認識とは何か?ということを徹底して論じてきました。何百年もかけて、とことん論理を突き詰めてきたわけです。

対して日本には、 デカルトのような合理論の文化は一切ありません。非論理的で、使う言語も文脈(コンテキスト)に頼る伝達方法が特徴的。常に曖昧でまさに暗黙的なコミュニケーションが主体です。(今まさに忖度という言葉が流行ってますがこれもそうですね。)

その暗黙知を活かして形式化・共有化したナレッジマネジメントに長けた企業の事例が紹介されています。

なぜ集団になるとダメなのか?のヒント

この本に、日米で共同作業をした人の以下のような言葉がありました。

仕事のマニュアル化にはアメリカ企業のほうに分がある。日本の場合は誰かスーパーマンのような凄い人が仕事をやればうまくいくが、後に引き継げない。アメリカではマニュアルがある限り誰でもできる。

そうです、論理的な文化のアメリカではマニュアル化がしっかりなされていて(多民族国家ゆえというこもとも大きい)機能するが、個々人の暗黙的な思考が身についている日本ではうまくいかない。
日本人の非論理的で暗黙的な思考は、誰でも分かる明確な論理で機能させることには向いてないんじゃないかと気付かされました。

なるほど、西洋には主体と客体をしっかりと分けて認識について考えてきた歴史がありますが、日本の場合は仏教・禅などの思想から「主客一体」「心身一如」「自他統一」といった知の歴史があるとのこと。それら一見「集団主義」に有利そうな要素がかえって機能しない理由になっている。日本人の暗黙的思考は、論理的なマニュアルや集団論理と相性が悪かったのではないでしょうか。

「言わなくてもわかるだろう」的なこともあり、疑問を徹底せず、その決まりごとが“なんのためなのか”わからなくなる。それ以上追及しないので会議の結果やマニュアルだけが独り歩きする。これが日本人の集団化における愚鈍化の構造だったのです。

デザインプロダクションにおける暗黙知の活用

デザイン作業の核心部分は間違いなく個人の力で作り上げるもの。
実力のない者ばかりが力を合わせてもいいものは絶対生まれないので、個々人が実力をつけることが必要不可欠です。

しかし、プロジェクト全体で考えると間違いなくチームプレイでもあります。個人の暗黙知を他の個人に伝達したり、デザイン集団での力をアップしていくことは言うまでもなく重要です。

デザインはまさに暗黙知の塊のようなもの。
技術を伝達したから分かるだろうではなく、個人がしっかり体験・習得することの重要性を再確認しました。
『知識創造企業』の中では、パン焼き器の開発のため、一流のパン職人が持っている暗黙的なコツを習得するため、開発メンバーが修行に通ったことが書かれてありました。
また、デザイン作業を暗黙的で“なんとなく”な思考で終わらさず、しっかり論理で炙り出してながらデザインすること。そいうった意識が「暗黙知から形式知への変換」に繋がりそうです。


 

『100年の価値をデザインする』奥山清行

『知識創造企業』野中郁次郎,竹中弘高

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